頚椎椎間板ヘルニア
(1)頚椎椎間板ヘルニアとは
体を支える動きのある柱構造(脊柱)のうち、頭蓋骨を支える首の部分の7つの背骨を頚椎と呼びます。
一番上の頚椎(第1頚椎)は、頭蓋骨の球状の底を受けるドーナッツ型(円座型・土瓶敷き型)をしており、環椎とも言います。第2頚椎は、第1頚椎の環の内側に支えを伸ばした構造をしています。軸を支えているとことから、軸椎と呼びます。第1頚椎と第2頚椎は、首を左右に回す動きをすることを担当しています。
第3~第7頚椎は同じ形をしています。第1~第7頚椎で、前後や左右に曲げる動きをすること担当します。
頚椎は、背中の部分の背骨(胸椎)や腰の部分の背骨(腰椎)とは異なる構造をしています。首には脳へ血液を送るという重要な働きをしている太い動脈、頚動脈があります。脳に直結する動脈にはもう1本椎骨動脈というのがあります。椎骨動脈は、頚椎の骨のトンネルの中を通過しています。頚椎の異常でこの椎骨動脈が圧迫され血行が障害されると脳の症状がでる場合があります。
頚椎の中には、脊髄が入っています。脊髄は、1つ1つの頚椎で枝分かれして頚神経となり、椎間孔を通って外にでると腕神経叢(そう)とよばれる中継所で行き先別に再編成されます。
頚神経は、頭蓋骨と第1頚椎の間から出る第1神経根から、第7頚椎の下側から出る第8頚神経根まで8本あります。このうち上方の神経根は後頭部や頚部を担当し、中ほどのものは肩甲骨や肩付近を、下方のものは橈骨神経・正中神経・尺骨神経など手を担当します。
頚椎の椎間板は腰椎に比べて小さく中身の弾力成分も量がわずかです。このため頚椎での椎間板の病気は腰椎での病状と異なってきます。
頚椎の骨のトンネルの中の脊髄の通る部分は、スペースとしてそれほど余裕がありません。脊髄は脳から続く神経回路の塊ですから圧迫に対して弱く、障害されると機能の回復が困難な面をもっています。(胸椎では同じ脊髄ですが順に神経根が枝分かれした分だけ構造が変化します。腰椎では脊髄はすべて枝分かれを終えて神経根という信号ケーブルの束になっています。機能をもった回路と違って、ケーブルの障害は回復の可能性が大きくなる特徴です。
(2)頚椎椎間板ヘルニアの症状
頚椎椎間板ヘルニアの症状の特徴は、腰椎椎間板ヘルニアと比べて症状が穏やかであることです(急性のものを除く)。また、圧迫される箇所の関係から上半身に症状が出やすいのですが、圧迫箇所が大きく広い場合には、下半身にまで影響が出ることがあります。
脊髄は、第1~第7頚椎の1つ1つの頚椎で枝分かれして頚神経となっています。ヘルニアを起こしているのがどの頚椎かにより、圧迫された頚神経が担当する部分が痛みます。例えば、右腕を担当する神経が圧迫された場合は、首ではなく腕の痛みが出ます。右腕から脳、逆に脳から右腕への神経伝達が上手にいかなくなります。その結果、無意識に震えたり、しびれたり、体温調節がうまく行かなくて冷えたりするという症状が出ます。これがさらに悪化していくと、自由に動かせなくなることもあります。
知覚神経(熱い・痛いなど、感覚を担当する神経)をヘルニアが圧迫すると、当然感触がわからなくなったり、冷たいとか熱いと言うものに対して鈍くなったりすることがあります。逆に熱くもないのに熱いと感じたり、寒くないのに寒いと感じたりすることもあります。
頭痛やめまい、視力低下、肩こり、ぼんやりするなども頚椎椎間板ヘルニアでは良く見られます。また、首を一定の方向に動かすと痛んだりしびれが走ったりするようなこともあります。
(3)頚椎椎間板ヘルニアの治療法
治療法は、大きく3種類に分類されます。
- 1.保存療法
- ◎薬物療法
頚椎椎間板ヘルニアでは、脊髄や神経根が圧迫されることで、頚部痛や肩こり、四肢のしびれ、巧緻障害など多様な症状がありますので、それぞれの症状に適した薬が選択されます。
◎理学療法
理学療法の主な目的は頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアによる疼痛の軽減です。
以下に主なものをあげます。
○装具療法 : 頚部の安静を保つための頚椎カラー。ただし長期の使用は逆効果となる。
○牽引療法 : 頚部の安静とマッサージ効果などが得られる牽引。牽引時の姿勢や症例によっては症状の悪化を招くこともある。
○物理療法 : 疼痛の軽減や血行改善のための温熱療法や電気療法など
○運動療法 : 頚部を安定させるための筋力強化と、軟部組織の拘縮をやわらげるストレッチ
◎ブロック療法
頚椎椎間板ヘルニアによる痛みの軽減、特に神経根への刺激によるものに対して、神経ブロックは効果的ですが、一時的にしか有効でないことも多いです。神経ブロックは、注射により神経に対して直接、またはその周辺に麻酔薬などを注入する治療法です。 - 2.手術療法
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頚椎椎間板ヘルニアの手術でもっとも多くおこなわれてい頚椎前方除圧固定術について説明します。 頚椎前方除圧固定術の前方とは、体の前方すなわち喉(のど)のほうから行う手術という意味です。
一般に、手術というとメスで切るイメージが強いのですが、この場合はあまり使用しません。皮膚を少し切りますが、しわの方向に合わせて切り、後で傷が目立たないようにします。切った部分から筋肉などの境い目を指などで押し広げて骨までたどり着きます。頚椎椎間板ヘルニアの場合、神経を圧迫している部分が、脊髄や神経根よりも前の方にあるため、前方から行うことで、原因となっている部分を直接取り除くこと(これを除圧と言います)ができます。比較的早い時期に原因となっている部分を取り除くと、症状の改善が見られることが多いようです。この手術のめんどうなところは、操作する部分が狭くて深いということです。そのため手術用顕微鏡を使っての手術が多いようです。顕微鏡ですから、操作している部分を大きく拡大できます。また顕微鏡の先端から照明器具がついていてが明かりをともしますので影になるところがほとんどありません。さらには、二人の医師が向かい合って狭い範囲を見ることができます。顕微鏡がなければ、頭と頭がぶつかって、同時に術野を見ることが困難です。神経根のあたりを除圧する場合、血液がにじみ出やすく、除圧の作業と血液の吸引を二人で分担できるのはとても便利です。
除圧の際に、椎間板はかなりとってしまいますので、上下の骨の接続はゆるい状態になります。上下の骨を動かなくすることを固定術といいます。固定術にもいろいろありますが、長所と短所をいろいろと検討した結果、現在はチタン製でネジ状のケージというものを使用しています。主な特徴としては、固定力が強く、比較的早期に通常の生活に復帰できることと、体のほかの部分から骨を採取したりする必要がないことです。
当商品は全ての方に効果があることを保証するものではありません。病気には、様々な症状・病状があり、効果には個人差があります。